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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(オ)314号 判決 1951年2月20日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人長沢賢治の上告理由は末尾に添えた書面記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

上告理由第一について。

普通地方公共団体の議会の議員の解職請求受理のような解職の投票の行われる前の過程における行政処分の違法を主張してその取消を求めるため、当該事務を管理する選挙管理委員会を相手方として、直ちに裁判所に出訴することを許した法律上の規定はなく、普通地方公共団体の議会の議員の解職の投票に関しては、地方自治法第八五条において、政令で特別の定をするものを除く外、同法第四章の規定を準用すると規定されているだけである。ところで、右第四章の規定である第六六条は、選挙の争訟に関する規定であつて、「選挙又は当選の効力に関し」ては異議、訴願又は訴訟を提起することができると定めており、地方自治法施行令第一一五条は、地方自治法第六六条第一項中の「当選」とあるのは「解職の投票の結果」と読み替えるものとすると規定している。それゆえ、これらの規定からみると、普通地方公共団体の議会の議員の解職の投票に関しては、その投票の効力又は投票の結果の効力に関してのみ異議、訴願又は訴訟を提起することができるのであつて、解職の投票前の過程における個々の処分の違法は独立した争訟の対象となるのではなく、ただ投票に関する争訟において投票無効の原因として主張することができるにすぎないものと解するのを相当とする。されば、本件石戸村議会議員解職の請求を受理した行政処分を違法としてその受理の取消を求めるのは、解職の投票が行われる前の過程における手続の違法を独立した争訟の対象とするものであつて、前記の理由により法律上許されないのであるから、原審がこの点に関する上告人の主張を排斥したことは結局正当である。それゆえ、論旨は理由がない。

同第二について。

普通地方公共団体である市町村の議会の議員の解職の投票に関する争訟において裁判所に訴訟を提起するには異議及び訴願を経なければならないことは、行政事件訴訟特例法第二条によるのではなくして、地方自治法第八五条によつて準用される同法第六六条の規定によるものであるから、この場合に右特例法第二条但書の適用があるかどうかは間題であるが原審はかりに右第二条但書の適用があるとしても、本訴については訴願を経ないで訴を提起し得る正当な理由は認められないと判断しているのである。そして、判決においては右の正当な理由のない旨を判示すれば足りるのであつて、その認められない理由までをも説示する必要はない。されば、原判決が右の認めなかつた理由を明示しない違法があるとの主張は採用し難い。

なお、論旨は、上告人は原審において選挙管理行為の法規違反等について各種証拠を挙げて主張したが、原審はこれに対する判断を示していないと述べているが、上告人の原審におけるかゝる主張は、本案に関する主張であつて、前記特例法第二条但書の正当事由の有無に関する主張ではないから、原審がこの点につき判断をしなかつたとて所論のような審理不尽の違法はない。されば、論旨は理由がない。

同第三について。

論旨は、原審が本訴中解職の投票無効に関する部分について、第一審判決を取り消しながらこれを第一審裁判所に差し戻さなかつたことは違法である。というのであるが、原審において右訴の部分の原判決を取り消しこれを第一審裁判所に差し戻したとしても、本来本訴のこの部分は原裁判所が第一審としての管轄裁判所であるから、結局これは、また原裁判所に移送されるのであつて、かかる差戻手続は原判決に述べるとおり無用に帰するのである。されば、右差戻手続はこれを省略し、直ちに原審において第一審裁判所として却下の判決をしたとしても違法ではなく、論旨は理由がない。

よつて、本件上告を理由ないものと認め、民訴四〇一条に従い棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介)

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